第28回 全十勝短歌大会 帯広市
お知らせ
第28回全十勝短歌大会、帯広の松浦さん大会賞受賞
十勝管内の短歌愛好者が結社の枠を超えて一堂に会する歌会「第28回全十勝短歌大会」(NPO十勝文化会議、十勝毎日新聞社主催)が3月25日、帯広市内のとかちプラザ大集会室で開かれた。管内から123首が寄せられ、助言者、披講者による熱心な講評が行われた。作品応募者の互選で決める「高点歌」の最高賞となる全十勝短歌大会賞は、松浦澄子さん(帯広市)が受賞した。
■全十勝短歌大賞
ふしくれて強張る指を湯にほぐす絹縫ふ仕事われにまだあり 松浦澄子 (帯広)
■NPO十勝文化会議賞
結ばれて農に励んだ六十年節くれの手で湿布貼りあう 岡 巌 (更別)
■十勝毎日新聞社賞
惚けても仕事着の似合う妻なれば働く唄の透るかなしみ 花岡和正 (音更)
■帯広市教育委員会教育長賞
ともしびを消せば無償の月あかり小部屋の窓へ差しのべてくる 原田美和子(帯広)
■十勝文化団体協議会賞
肩に手を置かれし記憶を懐かしむその肩にきて水となる雪 小椋たみ子(音更)
■帯広市民劇場賞
生計を鶏に託しし過去のあり二十八万羽の処理はいたはし 作田和博(帯広)
■佳作七位
メモらねば忘る幾度も聞き返すわれら不思議な二人となりぬ 中田美栄子(芽室)
■佳作八位
早蕨の萌ゆる日とほし病む夫のまつさらの靴火のそばに置く 栄 晶子(帯広)
■佳作九位
氾濫の川の中州の真赤なるスノーダンプに雪は降りつつ 三澤吏佐子(清水)
■佳作十位
酉年を迎へるはずの鶏たちは土に埋めらる罪なき儘に 伊藤啓子(帯広)
助言者賞
□中川明義賞
十勝野を甚ぶり抉る秋出水君よ怯むな祖は開拓者ぞ 伊藤昭子 (帯広)
□山川有古賞
どこまでもプルシャンブルー高い空マイナス22度この十勝晴れ 米谷壽美子 (音更)
□木村百合子賞
ふしくれて強張る指を湯にほぐす絹縫ふ仕事われにまだあり 松浦澄子 (帯広)
◆時田則雄賞
早蕨の萌ゆる日とほし病む夫のまつさらの靴火のそばに置く 栄 晶子 (帯広)
肩に手を置かれし記憶を懐かしむその肩にきて水となる雪 小椋たみ子 (音更)
大寒のポプラこの地に百年を生きて語り部の貌をもちゐる 木村百合子 (帯広)
◇特別賞
計測器までの除雪をありがとう検針作業の人のメモあり 堀 美津枝 (芽室)
百年を経て祖父の懐中時計ひ孫の手により今蘇る 久本玲子 (帯広)
■応募作品■
病みし身を代てやりたや妹よ天寿全う懺悔有りとて 齊藤智保 (音更)
六歳の孫におしえる五七五を指折りかぞえる言の葉あそび 矢部登久子 (帯広)
ネギ大根寒さに晒し甘味増し苦労重ねて人も味出す 平泉尚登 (帯広)
霧氷咲き通所通いの小枝にも日高の山のポロシリ白し 半田攻三 (帯広)
分家とふ免れぬ運命(さだめ)に春来なば鹿毛を頼りの抜根の月日よ 坂下洋子 (清水)
癌鎮め一年すぎし湯ぶねにて「生きているぞ」と拳あげたり 山田偕子 (音更)
父母の地に導きくるる空知川あの八月になぜ暴れしか 滝野正子 (帯広)
中卒で一家支えて来た私倦まず怯まず今をも生きる 稲守登美子 (帯広)
日の出るを陽の沈むのを身に受けてこの地に生きたし終末までも 橋本 佳代子 (清水)
除夜の鐘ききつつ我の五年誌読む亡夫の幻覚進むに涙 吉村淑子 (帯広)
凛とした日高の稜線見とれつゝ眞白き十勝野車窓に流る 森下吉加 (帯広)
火の山を降りて息つぐ間もあらで心中の死体見たかと問わる 鳥越汎之 (帯広)
日に幾度ヘリコプターの去来する隊近き我家(いえ)まして沖縄 大星悦子 (帯広)
青色に変はりしばかりの信号を確かな青と母と渡れり 鎌田博文 (帯広)
右足を糖尿病でなくしたる卒寿の姉にけふも手を貸す 須田敏雄 (帯広)
雪止みて椴松(とどまつ)おおう留まるや諸々の状彩に呆然 佐藤岩男 (帯広)
「ごはんだよ」黄昏どきの透る声母の満身に力ありし日 山川有古 (広尾)
おみくじのあれこれネタに暫(しば)しトーク姦(かしま)し家族に何故だか安堵 神﨑哲也 (帯広)
断水の不便ゆへ知る利便とて過ぎ去りのちは怠惰の流れ 小野洋子 (新得)
陽光を浴びキラキラと舞う雪は天使のおしゃべり聞こえてきそう 鈴木幸子 (帯広)
人日のつつがなきをととる箸にスーダンの子の涙が浮ぶ 久保田信鈴 (帯広)
父母の老いにゆるりと添わざるを齢重ねて身に知らされる 内田美佐子 (音更)
朝まだき凍てつく空に星ひとつ外灯ほのかに窓に映りし 高橋幸史 (帯広)
雪晴れにおしくらまんじゅうする児らの寒さに慣れたほっぺはタコ焼き 尾上ひとみ(鹿追)
憂苦に耐へ喜楽を分かちて来しふたり新年(にひどし)の日の光(かげ)添ひてあふぎぬ 櫛引孝三 (帯広)
山、川を越えて金婚夢新た健やかなるを趣味に勤しむ 田苗佐代子 (帯広)
台風の命の路なり羆路(ひぐまみち)と邪揄(やゆ)のされにき高速道路は 寄木由美子 (幕別)
参道も境内(ニワ)も靜けき朝明けに一人詣でり鳩の群れとぶ 岡安一五 (上士幌)
二歳児はこんなに重いものだとは孫なき吾はわすれていたよ 村谷三恵 (清水)
倒木を労うように朝の陽に樹氷の零す白き光は 松原みち子 (音更)
うれしさも悲しき事ものり越えて今日の倖せ米寿を祝ふ 佐藤政子 (音更)
この指も母の創りしものなれるベッドの脇で林檎むきつつ 宮﨑幸夫 (清水)
子を見舞ふ雪道折りおり吹雪きゐて胸奥ふかく憶ふ日のあり 渕上つや子 (音更)
隼が庭の一位に止まりきてびっくり見てる吾を見ている 大澤赫子 (帯広)
この一歩もう一歩とぞ足運ぶ翁の背に冬の日温し 加地真知子 (帯広)
一歩づつ力たくわえ稀勢の里頬にひとすじ横綱道へ 小野塚栄子 (音更)
カレンダーに赤丸の日は輝きて曾孫生まれる予定日なれり 堀田正晴 (音更)
閉山にて幾年過ぎしか寄せ書きに師の文忘れぬ「短歌(うた)いつづけよう」 西原 ハルエ (帯広)
新たなる意欲を燃やし挑まむか去年(こぞ)の不作に負けてはならじ 山口 勝 (幕別)
耳も眼も弱りし身なれど「コーラス」と「短歌」が我の明日への力 阿部和子 (帯広)
ケイタイの時計の示す2が四つ凍てつく夜に逝きし弟 佐々木礼子 (帯広)
編み棒の子は休めずに足先で仔猫とあそぶ縁の日だまり 中川明義 (帯広)
三日月に火星寄り添う三が日宇宙(そら)の不思議に平和を願う 奥 豊子 (帯広)
春を待つ花の蕾はわが心「咲けよ咲けよ」と思い溢れる 高橋友子 (帯広)
身の丈の推敲重ね気負いたり添削されて短歌(うた)生かさるる 岡田静子 (帯広)
「おばあちゃん牛乳だって!」いもうとの通訳をするお兄ちゃんは四っつ 森戸 聖子 (帯広)
眠るよな静かな顔に笑み浮かぶ我ら手向けし花に囲まれ 種田政朔 (帯広)
冬日差す赤き実たわわに雪被り前挿なるや人の目奪ふ 千田慶子 (帯広)
息に歩調合わせられつつ黙すのみ躓く母にとっさ伸びる手 鳥井綾子 (芽室)
母さんの天国(くに)も寒かろと言ひながら夫は仏間のストーブ点火す嶌 千津子 (帯広)
乞わずとも重ねし齢ひ握りしむいづる涙は吾が手に秘めむ 鈴木容子 (帯広)
おきざりにされた記憶をゆっくりと探し始める日曜日の午後 清田孝子 (帯広)
かじかんだ手を温めんと吐く息の眼鏡にかえるホワイトアウト 中島大和 (芽室)
野草園の白根葵のふくらめり越しゆく君の花とし思はむ 梅根文子 (帯広)
病む友の差し出す腕に夫のらし時計を見たりふと目のうるむ 廣田蓉子 (帯広)
樺の木の割けて枯れたる片方を巻いて添わせるツルウメの腕 竹内黎子 (帯広)
今日こそと拭きはじむれば窓よりも心はれきぬ立春ちかし 舟橋伶子 (帯広)
雪深き庭の辛夷に鷂かみじろがぬなり鋭さを見る 佐藤玲子 (帯広)
まだ四時の目覚早くし朝刊貼り凍りいるごと身を軋ませる 齊藤啓子 (帯広)
問ふべきも問はぬ心得諭されし君に従き来て現在の安らぎ 中野智恵 (幕別)
泣きごとは言うまいと決め四十年暮らす北の地ふる里しのぐ 能手真佐子 (音更)
鳥インフルの終息伝ふ雪の朝白きご飯に鶏卵を割る 酒井 武 (帯広)
礼を述ぶわれより低く返さるる社長の御辞儀にとまどう一瞬 阿部京子 (帯広)
父と子と雪だま転がす公園に前ゆく父を追ふ声響く 宝泉 三枝子 (音更)
傍らに夫ゐることの仕合せを沁みて思ひぬ古稀過ぎてより 井上美恵子 (幕別)
湯けむりに初日を拜し心して子等の温もり如何に報はむ 渡辺コマツ (帯広)
新玉を迎へて八日生まれ日の重ぬる齢ひとつが重し 永田栄子 (帯広)
大寒を過ぎて窓辺に満開の心なごますアザレアの花 武田榮造 (帯広)
明け方の森にひびいて凍裂の樹は幹ひろく哂して立てり 阿部キミ子 (帯広)
タウシュベツアイヌが住むか武四郎犬の声聞き勢多を超へ行く 伊東昭二 (上士幌)
墨色に心含ませ筆遊び春のおぼろの手紙を綴る 河口 敦子 (帯広)
公衆のトイレに響くガラガラは詰りはせぬかと老婆心のわく 竹田 君江 (帯広)
子羊を野に追う草原甦るはなの紡ぎし大寒の小物 藤川恵子 (帯広)
満天の星の凍夜に居る君ともっと生きたしこの地の上で 林 恒子 (音更)
けふ飲みたる薬の数もわすれゆく人と持ちあふ時やはらかし 吉田真弓 (中札内)
綴れみち卆寿の世辞に笑む母の施設の扉夕日まぶしき 北本扶美子 (帯広)
代りたしとふ伯父の無念のひしひしと娘亡くしし思ひありあり 松島恵 (帯広)
雪を掻く日々を重ねし我が顔の風化のさまも愛おしきかな 佳山聖子 (士幌)
椋鳥(むくどり)の群一斉(むれいっせい)に飛びたちてゆれつつ遠のく青し冬空 東村英子 (帯広)
膝までも雪は降り積む雪掻きは冬のスポーツと楽しみており 大津達子 (帯広)
集う鳥餌を求めて急ぎ足人間社会重ねて眺め 山口京子 (帯広)
また一人古老が逝きて買い出しと闇値の記憶風化止まざり 笹川幸震 (帯広)
言の葉より空気ものいう世を憂い一番鶏が寒天を裂く 武藤正利 (音更)
バイオガス糞尿処理で発電気自然優しい環境保全 牧野 幸司 (清水)
黒豆を煎る手に母の手を重ね懐かしきにほひ胸いっぱいに 北川順子 (士幌)
手みやげの花のもようの菓子包み咲かせて子らは甘き香たてる酒井菊江 (帯広)
叶わぬと思いながらも持つていた土産を持たぬ大統領来て 田中 稔 (鹿追)
節分に鬼は外と豆まきちらし日ごろのうっぷん我鬼と化し 武田和子 (帯広)
百歳を超えて嬉しき吾が母は次の目標見れるか五輪 浅野勝彦 (帯広)
雨ふりし芝はべちょぬれ大変だ明日は晴れよとなんども願う 伊藤慧斗 (中札内)
七転び八起きは我の齢ならむ初日を迎え柏手を打つ 橋本英敏 (帯広)
故郷浦幌に向いて言う事有り寂れて行くは哀しがり 西山 勇 (音更)
墨の香に力いただく新春の逝きし友への鎮魂のうた 塚越美歌子 (帯広)
亡き父の年越えし今目の前に認知さけたし今日もお出かけ 林 サダ (帯広)
若き日に幾年文を交わせども日劇支配地位に戦く 鈴木英子 (帯広)
区別する差別の次は陰湿ないじめ先生跡を絶ずに 大崎和男 (新得)
寒中の朝冷水で洗顔も習慣ならば苦にもならざり 貝塚知里 (帯広)
手術せし心臓映像見入る医師のまなざし窺う懸念いだきつ 齋藤ヒデ子 (幕別)
もと赤き唇(くちびる)に紅(べに)ぬりたるは君の胸への刻印(こくいん)となれ 村上説子 (帯広)
あしたこそ刈り取る時ぞ翁な言う月に踊れるソバの実握りて 佐々木誠一 (帯広)
異常な雪にはしゃぐ子らの未来には風はやさしく吹けよと祈る 三木悦子 (士幌)
妹は癒えぬ体でありながら同じ施設の夫を看取りぬ 柳瀬宗央 (帯広)
また来たり「確定申告」苦手だなさらに今年はマイナンバーもという 秋國為八 (帯広)
大粒の空から降りしクリスタルひとときの世に淡く輝く 早苗 晶子 (幕別)
義母の死と義父の死を越え鮮やかに咲き紡ぎたるシャコバサボテン 高橋利勝 (本別)
農やめて夫婦でながむ線路ぶち行き来の貨物おおぞら、とかち 木田京子 (幕別)
母見舞いまた来てねと涙ぐむそっけないそぶりし手を振り帰り来 對馬すみれ (音更)
時を越え「四ツ葉」のパワー半世紀アグリの魂(こころ)永遠(とわ)に不めつだ 大江昭三 (新得)
大寒の朝は万木凍りたり見渡す限り白のドレスに 田村小次郎 (更別)
仮橋の架かりて往き来ふたたびの災ひの町に生き出づ兆しよ 長内美幸 (清水)
豊かさに慣たる日々を暮せしも自然の猛威に開拓父偲ぶ 宮北良子 (幕別)